紡がれる鼓動


12月17日金曜日、町田市民ホール。ずいぶん小さな会場でした。
ほぼ中央、前から9列目。舞台上で腰掛けたくらいの高さと同じです。
左右にそれぞれギターとベース、中央にドラムセット。機材は簡素のように見えます。ラックを積み上げるようなのはありません。
開演前から舞台上にスモーク。それが客席に流れて薄霧状態です。


渡辺香津美登場。ソロを弾く後方でベースの Richard Bona、太鼓の Horacio "El Negro"Hernandez が定位置につきます。
3人揃って強烈なイントロ。続いて渡辺の弾く旋律は Bud Powell「クレオパトラの夢」(1)。


低音の刻みが腹に響きます。バスドラのもろに正面に位置するせいか。
あゆこさんによると「心臓をつかまれて鼓動を送り込まれるよう」。
ベースは5弦の指弾き。柔らかな音だけど、粒立ちははっきりしています。


それにしても、Hernandezの体が殆ど静止しているのはどうだ。こんなに凄まじい16ビートはついぞ体験したことがないと思うに。
Bonaも上体はあまり動きません。ぎこちないほどに。


続いて Miles Davis "Milestones"。'79年、坂本龍一らとのプロジェクト"KYLYN"(2)以来、折にふれて演奏されてきた曲です。
渡辺がモードを学ぶ契機となった曲で思い出深いんでしょうか。
"So what"(3)のベース前奏のふしで「♪うまくなりたいな、はーは、」と歌いながらモードを学んだとかって、昔FMのレギュラー番組かなんかで語ってましたっけ。


3曲目も重いビート。ギターの和音で奏でられるテーマは?なんだ?脳内に強烈に刻まれた示準化石を掘り起こされる思いがします。
"Naima"でした。Coltraneの佳曲。あの静謐なテーマを、このビート、この和音でやられるとは。


MCに続いてトリオ1枚目から2曲、"Death Valley"組曲、さらに2枚目からの選曲が続き、'83年「遠州ツバメ返し」の再演「遠州ツバメの恩返し」ではメドレーのようにして'80年畢生の名曲"Unicorn"の一節も登場。鳥肌がたちます。


5弦ベースから指で細かなフレーズを紡ぎだすBona。ソロパートでは、楽音とユニゾンでファルセットボイスを聴かせる。これは驚異でした。
そしてさらに驚くべきは、高音弦をシンセサイザーのトリガーとしても設定しているようです。
どうも先ほどから、トリオの楽音以外に和音のような音が聞こえると思ったのは、これがその正体でした。
よほど正確なアーティキュレーションがなければできない芸当と思います。


それぞれのソロの中で引用されたのは他に、「サンタが町にやってくる」"smoke on the water""Jean Pierre"(4)"Birdland"など。


アンコールでは渡辺はワイヤレスで登場、弾きながら客席を1周するサービス。
後をふりかえると1/3くらい空席です。なんと。
ツアー千秋楽ということもあってか、異様な盛り上がりのうちにおひらきとなりました。


1ザ・シーン・チェンジズ 2KYLYN 3Kind of Blue 4we want miles