感服仕る

多摩アンサンブル・バッハ ブランデンブルク協奏曲全曲演奏会 於 杜のホールはしもと


。13時開場。6列目正面の特等席を押さえたあとロビーへ。椅子や譜面台などが置かれているあたりも人影は疎らです。
定刻の13時10分を過ぎて、楽器を手に3人が登場。
「ここじゃ観客に近すぎるね」とか話しながら場所を少し移したりして。「じゃ、お辞儀でもしますか」とか。のんびりした雰囲気です。


音楽の捧げもの」は高校時代からさんざん聴いてきた曲です。トリオソナタから第1楽章ラルゴ、第2楽章アレグロ
フルート、バイオリン、チェロの編成。いずれも現代楽器。チェンバロはなし。ふつうは4人で演るのにトリオソナタとはこれいかに。
チェロが全体を締める印象です。フルートはややはしり気味か。バイオリンの音がやせてきこえるのは、ロビーで反響が乏しいせいか。
2楽章の後半、「音楽の捧げもの」劈頭の主題が各楽器にあらわれるところでは背筋が寒くなるような心持ちがしました。


じつはバッハの演奏会って、それほど聴いてるわけではないのです。
'89年キースジャレットのゴルトベルク、'90年ライプツィヒゲヴァントハウスのマタイ全曲、それと昨秋アランのオルガン
ブランデンブルクは高校のころ、FM放送を断片的に録音して聴いてたくらいで、全曲まとめて聴けるようになったのは、大学2年でコレギウムアウレウムの旧譜2枚組LP廉価盤を購入してからでした。楽器構成の変化に富んだ6曲。
けふはどんな趣向できけるのでしょう。会場はほぼ満席になりました。


第1番へ長調。いきなり19人編成です。正面にオーボエが3人並びます。後方にホルン2人、右手にファゴット1人。
弦楽はバイオリン5、ビオラ4、チェロ2、コントラバス1。それにチェンバロ。指揮はありません。
最初の音の印象は、粒立ちが今ひとつはっきりしない感じでした。テンポはかなり速いようです。
4楽章のホルン重奏ではやはり音がこもったようで、伴奏役のオーボエのほうがめだったくらいでした。


奏者いったん退場した舞台ではチェンバロが中央に移され、椅子も大幅に入れ替えられています。
2曲目、第5番ニ長調はほとんどチェンバロ協奏曲です。他にバイオリンとフルートが前面に出されています。
1楽章の長大なカデンツァはじつに流麗に弾きこなされていました。


休憩をはさんで第6番変ロ長調。この曲はなんとバイオリン不参加です。
ビオラのソロ奏者が2人前面に立ち、後ろに合奏のビオラ2、チェロとコントラバスチェンバロ各1。
第1音で、あれっ?と思いました。チューニングが狂っているのかと思うような濁った音。
よく聴いてみるとそうでもなくて、どうもビオラの音程が安定してないような感じです。
中低音をよく生かした特徴ある曲だけに残念でした。


ついで第2番へ長調。フロント3管、トランペットとフルートとオーボエ
トランペットは巻きが長そうです。フリューゲルホルンともちょっと違うようですけど、やわらかな音。
曲想には合っています。合奏の一部となるときとソロでは音色を変えて吹いているが如しです。


2度目の休憩のあと、第3番ト長調。半円形に並んだ弦楽はバイオリン6、ビオラとチェロ各3、コントラバスチェンバロ各1の通奏低音
特定のソロ奏者はなく、パート全体でソロを応酬する趣向です。これが過酷なことに、パートごとの伎倆差をきわだたせてしまいます。
やはりビオラの弱いのが残念至極。


最後は第4番ト長調ブロックフレーテ重奏とバイオリンの協奏曲。
全曲中もっともまとまってた印象でした。流麗で細かなパッセージのブロックフレーテ重奏もみごと。
しかし、合奏全体の中ではどうしても埋もれがちになってしまいます。考えてみれば、現代楽器の中にあってブロックフレーテのみいわばピリオド楽器のようなものですから、音量の均衡を欠くというのも無理からぬことでしょうか。
弦楽合奏も得意な曲なればこそ音がよく出ていたのかもしれません。


さて、全体をかえりみると。
マチュア奏者による無料演奏会だから、それほど期待してはいけないかなあ、などと思いながら会場に臨んだのですけど、満足感は期待以上のものでした。
そりゃ、一流どころの演奏との差は、素人の耳にも歴然とするところはあります。帰宅してレオンハルトの全曲版CDで聴きなおしてみると、やはり弦の音の輝きや合奏の音の粒立ち、全体の表現の豊かさなど、やはり違うなあとの思いを禁じえません。
それでも、アマチュアであれだけのものをつくりあげたかげにあるはずのエネルギーには感服するほかありません。
無料で聴かせてもらったのが申訳ないくらいです。この演奏にふれて、ブランデンブルクやバッハやバロック音楽に興味を持つ人が多くあらわれるといいなあと思います。