会計・内部統制・監査

凡例 配付資料はA4版1枚。その記載内容を枠内に示す。枠外に説明要旨を補う。

1 株式会社の特権 
 有限責任であること。

  
2. 受託者から委託者への説明
 2.1 説明責任 accountability
 2.2 会計    accounting

1 株式会社の特権
株式会社は有限責任という特権をもつ。
事業に失敗したら、株主の出資は返さなくてよいという特権である。


2. 受託者から委託者への説明
株式会社は委託者たる株主から財産の運用を受託する。受託者は委託者へ説明責任を負う。それが会計である。
会計の機能は、第一に資本と損益の区別、第二に期間損益計算である。これらは複式簿記が実現した。

3. 内部統制 internal control
 内部統制とは、企業がその業務を適正かつ効率的に遂行するために、社内に構築され、運用される体制及びプロセスである(5.3)。

3. 内部統制
会計や説明責任の内実を担保するものとして内部統制はとらえられる。


この領域では、所謂"COSO report"(5.1)がデファクトスタンダードのように用いられている。
国際決済銀行バーゼル委員会報告、本邦金融庁の金融検査マニュアルなどもこの枠組みを踏襲している。
後掲の企業会計審議会答申(5.2)、経産省指針(5.3)なども同様。

3.1. 目的(5.3)                                (5.1) 
 3.1.1 事業経営の有効性と効率性を高めること          Effectiveness and efficiency of operations.
 3.1.2 財務報告の信頼性を確保すること              Reliability of financial reporting.
 3.1.3 事業運営に関わる法規や社内ルールの遵守を促すこと Compliance with applicable laws and regulations.

3.1 目的
内部統制の目的の第一として、3.1.1がとりあげられていることに注目すべきである。
3.1.2や3.1.3のみが内部統制の目的ではない。アカウンタビリティコンプライアンスを喧伝するあまり、事業経営の有効性と効率性が等閑視されてはなるまい。

3.2. 要素(5.2)   (5.1)
 3.2.1 統制環境 Control Environment       
     経営者の経営理念や基本的経営方針、取締役や監査役の有する機能、社風や環境からなる。
 3.2.2 リスク評価 Risk Assessment          
     企業目的に影響を与えるすべての経営リスクを認識し、その性質を分類し、発生の頻度や影響を評価する。
 3.2.3 統制活動 Control Activities      
     権限や職責の付与及び職務の分掌を含む。
 3.2.4 情報・伝達 Information and Communication
     必要な情報が関係する組織や責任者に、適宜、適切に伝えられることを確保する。
 3.2.5 監視活動 Monitoring
     これらの機能の状況が常時監視され、評価され、是正されることを可能とする。

 
 これらの諸要素が経営管理の仕組みに組み込まれて一体となって機能することで上記の目的が達成される。

3.2 要素
内部統制の要素の第一として、3.2.1がとりあげられていることに注目すべきである。
3.2.1 内部統制の対象となるべきが従業員ではなくまず経営者であることを宣言する。内部統制の限界は経営者が形成する。
3.2.2 限りある経営資源をどこに向けるべきかの判断が重要である。
3.2.3 狭義の内部牽制あるいは権限と責任の明確化を主として分掌のしくみにより実現する。
3.2.4 第一線の情報を経営判断へ。経営理念・方針、code of conductを全社へ。
3.2.5 4.1へ。

4. 監査 audit


4.1 内部監査    ・・・経営者のために内部統制の有効性を評価、是正。
 4.1.1 業務執行部門におけるコントロールとモニタリング(5.3)
 4.1.2 業務執行部門から独立したモニタリング(5.3)
4.2 会計監査人監査・・・財務報告の利用者のためにその信頼性を監査、報告。
4.3 監査役監査   ・・・株主のために取締役の職務執行を監査、報告。

4. 監査
モニタリングの実現形態が内部監査であるといえる。
内部監査は会計監査人監査・監査役監査とともに所謂三様監査を構成する。
(所謂委員会設置会社においては監査役監査は監査委員会監査と読み替えればよい。)


それぞれ誰が何のために行うのかを比較すると理解しやすい。
三様監査4.1〜4.3はそれぞれ内部統制の目的3.1.1〜3.1.3に対応しているかもしれない。


4.1 内部監査
内部監査は経営の内部にある。評価や是正まで含めた過程ととらえられる。
4.1.2は狭義の内部監査といえる。しかし日常の業務執行の中でも監査は機能しうる。
4.1.1では日常の業務執行と一体であるがゆえに、本来別機能であるコントロールとモニタリングもまた一体のものとしてとらえられているのが特徴的である。
 コントロール…業務が適正かつ効率的に遂行されるための            仕組み及び活動
 モニタリング…業務の            遂行状況を    継続的に監視する        活動


4.2・4.3 監査役監査・会計監査人監査
内部監査に比して会計監査人監査と監査役監査は経営にとって外部にあるといえる。
それらは監査により意見を形成し報告することで完結する。
その報告をどうとらえどう行動するかはそれぞれ報告を受けた関係当事者に委ねられている。

聴くこと audio 

結びにかえて
会計・内部統制・監査の機能や役割は、以上のような文脈でとらえると理解しやすい。
監査は問題を論うためのものではない。話を聴くことと語源を同じうする。話を聴くことがよりよい経営を実現することの基礎をなす。

5. 文献
 5.1 Committee of Sponsoring Organizations of Treadway Commission"Internal Control - Integrated Framework (Executive Summary)",1985-2004. 
 5.2 企業会計審議会 「監査基準の改訂に関する意見書」金融庁、2002年。(pdf)
 5.3 リスク管理・内部統制に関する研究会リスク新時代の内部統制〜リスクマネジメントと一体となって機能する内部統制の指針〜」経済産業省、2003年。(pdf)
 5.4 Committee of Sponsoring Organizations of Treadway Commission"Enterprise Risk Management - Integrated Framework (Executive Summary)",2004.

5. 文献について補足。


"COSO report"は昨年改訂版(5.4)が出た。目的と要素はそれぞれ次のように改められている。
旧版よりも経営戦略とリスクマネジメントを重視した構成のようである。
 Achievement of Objectives
  Strategic- high-level goals, aligned with and supporting its mission
  Operations- effective and efficient use of its resources
  Reporting- reliability of reporting
  Compliance- compliance with applicable laws and regulations
 Components of Enterprise Risk Management
  1 Internal Environment 
  2 Objective Setting / 3 Event Identification
  4 Risk Assessment / 5 Risk Response
  6 Control Activities
  7 Infoemation and Communication
  8 Monitoring


1・2.の構成は下掲書aによるところが大きい。
2.2.3におけるcode of conductの扱いについては、下掲書bに詳述されている。
5.3の本旨はむしろリスクアプローチ手法導入にあるといえる。たとえば下掲書cの大きなテーマとなっている。


a 木村剛「『会計戦略』の発想法 日本型ガバナンスのスタンダ−ドを探る」日本実業出版社、2003年。ISBN:4534036108
b KPMGビジネスアシュアランス株式会社「コンプライアンスマネジメント―インテグリティ(組織の誠実性)実現のための課題」
  東洋経済新報社、2003年。ISBN:4492531653 *1
c 浜田康「『不正』を許さない監査」日本経済新聞社、2002年。ISBN:4532310121
a「会計戦略」の発想法 bコンプライアンスマネジメント―インテグリティ(組織の誠実性)実現のための課題 c「不正」を許さない監査