初めてのジャズクラブ

ジャズを聴き始めたのは21歳の頃だから、未だそれほど経ってるわけではないが。
この前の日曜、初めてジャズクラブというようなところに行きました。ピアノで名を成した旧友の演奏を聴きに。
その名も高き新宿 Pit Inn、これまで数々の名演の舞台として知られる。こんな場所にあったのか。


開演時刻から予約番号順入場、「1ドリンク付」なので炭酸水を註文。
「禁煙席はどこですか」などと訊いてもせんなきこと。中央4列目に一行3人分の席を確保しました。
視界いっぱいに舞台空間が広がる。左にピアノ、中央にベース、右に太鼓。
やがて照明が落ち演者登場。御大は咥え煙草。


ピアノの音の粒立ちは生だといっそう際だつようです。
氏の編曲や即興はイントロから曲名を想像し難いような気がしますが、やがて現れた主題はお馴染みの"but not for me"。
背筋を伸ばし、というか反り気味でさえあり、顎を出し、手元も譜面さえも見ていないかのような姿勢で、紡がれる音はじつに端正。
ベースのみ拡声器経由の音? 舞台左右天井からJBL風の巨大なスピーカーが吊られています。


2曲めは主題からも曲名がわからず。3曲目は"I loves you, Porgy"。
曲間の語りで「今宵はスタンダードだけ。アバンギャルドはやらない」って。
アバンギャルドは難解だがアーバンギャルはさらに、なんて至言をきいたのはいつの日か。


ベースの音は柔らかで、しかし決めどころで確実に決まる音を出すという印象。
アルコは曲の終わりで根音を弾くくらいじゃなくて、ソロの即興でも多用、しかし音の艶やかさは今ひとつ?
いえ芸大出とは存じませず。山下洋輔世代の共演者としてご高名はかねがね承っておりました。生演奏にふれるのは初めて。ではなかった。*1


太鼓は掌中でスティックの踊るようす、ブラシやマレットの技などで視覚もたのしめる。
右手のスティックで刻みながら左はブラシに持ち換えてるとか、時にはブラシの柄でシンバルを叩いたりとか。
曲の終わりぎわ、演者それぞれシンバルや弦に触れ鍵盤から指を離して音を止める瞬間を感じられるのも至近の生ならでは。


4曲目は"how insensitive"。ボサノバでは太鼓の手堅さが全体を締める。
次は"eiderdown"だっけ。スタンダードといっても Steve Swallow の曲、御大の新作 *2で初めて知った。
30分ほどの休憩を挟んで後半1曲目は"all of you"。Miles Davis 1955年の録音を思い出した。2曲目不詳。


突然のピアノの不協和音がこれまでの雰囲気を破ると、右手にマイクを持った御大の語りが始まる。著書 *3の一節、バブル期の銀座の物語。
あのときの、コンナトコデオレハナニヤッテンダロという気持ちをそのままほったらかしにしておかなかったからこそ、現在の自分、今宵のこの瞬間があるのだ。
そんなメッセージを改めて突きつけられているような。それにしてもマイク右手に、左手だけでよくこんな音が出るね。
ベースと太鼓もそれに応じて、朗読に合わせるかのように? 過激な即興が続く。


そして"trio music"の1枚目から2枚目に移るが如く*4、ピアノはMonk節"misterioso"のイントロへ。前衛とMonkは相性がよいのか。
御大初めて立ち上がって弾く。Monkの風狂が乗り移ったかのように。
続いてたたみかけるように"solar"へ突入、いっそう盛り上がって大団円を迎える。


ジャズクラブにはアンコールってあるのか?アルコールはあるけど。
などと考えつつ拍手してる間に演者再登場、御大曰く「カップルはこの雰囲気のまましけこんで下さい*5」。曲は"my foolish heart"。
ピアノの和声、ベースの決めどころ、太鼓のブラシワーク、演者間の間合いなど、今宵の演奏の真髄を凝縮したような終曲でした。

*1:帰って調べてみたら、忠臣蔵に出演されていた!'05/1/17付記載。

*2:5/5付

*3:6/14付

*4:次項をみられよ。

*5:大意。