異次元の笠間センチュリーラン2002 前篇

Date: Wed, 11 Sep 2002 03:27:13 +0900
Subject: [BD cycling:10879] 異次元の笠間センチュリーラン 2002( 前篇)


みなさんこんにちは。こぐです。
「笠間センチュリーラン2002」、BD-1wでからくも時間内完走できました。


いつも異次元空間をさまようkogの記です。
今回は、全世界の(た)さんファン、たかさんファンに捧ぐ!?



異次元の笠間センチュリーラン2002
 前篇 1.予兆 2.孤軍 3.邂逅 4.共闘 5.逡巡 6. 蹶起
 後篇 7.出撃 8.信念 9.兵站 10.掉尾 11.終章



1.予兆 


9/1(日)、「笠間センチュリーラン2002」。
茨城県笠間を中心に、筑波山周辺約百マイルを走るイベントである。
そのくらいの距離は何度か走ったことがあるので、あまり深く考えずに申し込んでから、制限時間が9時間であったことに気づいた。
実走平均20km/hとして、休憩1時間の計算になる。
仮に10時間あれば余裕。8時間では私の力では困難。
9時間とは微妙な設定だ。


聞けば、コースは8の字の中心からスタート、前半は南方筑波山麓を1周してスタートに戻り、そこから後半は北方へ、山がちの城北地域をまわるという。最初から前半だけで終えるハーフコースという設定もある。
ならば、フルコースを時間内完走できるペースで走り、それでへたばったら前半でリタイアすればいいな、というくらいに気楽に考えていた。峠の途中で進退きわまるのとはわけが違うというくらいのもので。


ちょうど1週間前の8/25(日)には、「全日本マウンテンサイクリングin乗鞍」に出場。
こちらは20kmの道のりで標高差1400mを登るレースである。今夏のメインイベントは乗鞍で、笠間はその余勢をかって、というつもりだった。


心がまえの上で、笠間のために全力を傾注してきた人と差があるのは否めない。
そして当然のことながら、心の隙に神の摂理は容赦なく立ち入ってくることをやがて思い知らされることになる。



2.孤軍


快晴、暑くなりそうな朝。予定より15分遅れ、8時15分から順次スタートが始まる。

 
10人くらいずつ一線に並び、1分おきのスタート。
仲間は、私の前に5人。後に8人。先発の5人にはもうゴールまで会えないかもしれない。


同発は私以外みなレーサーで、25km/hほどでついていけるのも束の間であった。
さらに、後発の人々に抜かれ続ける。
4月に出場したツールド八ヶ岳でも先週の乗鞍でも、抜かれる数が圧倒的に多くても、抜ける人が少なからずいた。
きょうは抜かれる一方である。参加者全体の平均速度をあきらかに下回っている。


進路が南転すると、とたんに向かい風が強くなる。
メーターの平均速度も、25km/h台から時間を追うごとに落ちる一方だ。
平均時速20km/hまで落ちれば、休憩時間は累計1時間しかとれなくなる。
速度を維持するのか、休憩を減らすことを覚悟するか。余裕のないのがつらい。


走りながら頭に浮かぶのは、安易に参加を決めた己の愚かさと、ハーフコースだけ走ったらリタイアすることばかり。
自転車に乗り始めて以来、自分の意思で初志を枉げたことはなかったのに。自転車生活最大の危機か。そして仲間うちで1人だけリタイアとなるのか!?
目に映る路傍の広告看板「車・で・金・融」という4文字が一瞬、「敵・前・逃・亡」に見えた。


出発後1時間以内に、後発の仲間ほぼ全員に抜かれたようだ。
そういえば、新車のレーサーデビュー、16分後発の たかさんはどうしたかな。



3.邂逅 


やがて第1給水所に到着。見覚えのある小柄な姿は、1分早発の(た)さんだ。元気そうにみえる。
地獄で仏とはこのことか。
しかし談笑する間もなく、私が給水してる間に彼女は出発してしまったようだ。
そういえば、夫君(あ)さんの姿がない。いつもご一緒のお二人が、きょうは各自のペースで全力を尽くす覚悟か。それぞれに真剣勝負なのか。


次の第1チェックポイントでも同じように(た)さんに出会い、そして置いていかれた。私と(た)さんは期せずして同じペースで、スタートの1分差をずっと維持しているかのようだ。


走っているのは平坦な田園風景の中。でも時折、直線道路がそのまま上りになっているのに遭遇する。遠くから見通すと急傾斜のようにみえるが、登ってみるとそれほどではない。
水平からいきなり三角定規のへりを登るような形だから急にみえるのだろう。あるいは、下りから上りに転ずるようなところではなおさらだ。峠道がしだいに急になって10%を超えるというのとはわけが違う。


遠くの直線の長い上り坂の途中で立ち止まっているのは(た)さんだ。
こまめに休みながらパワーを炸裂させる(た)走法を実践中なのだろう。
こちらは一定の回転数で登っていく。登っている最中は下を向いてしまう。
とおりすがりに声をかけようと思う。近づいて顔をあげると、片手で拝むようなしぐさ。
なんだろう?自転車を降りる。
ディレイラーの不調という。私もワイヤーの調整法くらいしかわからない。頼りないkog。
ほどなく たかさん登場。スタートの時間差16分を縮めて追いつかれた。
ときにわれら仲間の専属メカニックの役割を担うたかさん。心強い味方だ。



4.共闘 


しかしさすがのたかさんでも、このトラブルはすぐには解決できないようだった。
(た)さんのパシフィックは、フロントを2枚化、チェーンを手でかけかえる。峠ならずっとインナーで登り続けられるのに、ゆるやかなアップダウンを含むコースでは、フロントダブルの効果はあまり発揮されないかもしれない。


とりあえず走れるようにして、3人で出発する。(た)さんはフロントアウターでリアはあと2枚を残して登っていく。その姿が次第に遠くなる。


また先ほどと同じような直線の上り。遠くにレーサーが一列に並んで走っているのが見える。
次の瞬間、車線右側に1台はみだすのは(た)さんだ。追い抜いて、また1列に戻る。そして何度かそれを繰り返す。まるで映画のワンシーンのようだ。荒野の陽炎ごしに望遠レンズで撮られたシーン。


レーサーのギア比は、上り坂には重いのかもしれない。私も追い上げて抜ける。BD2台に続けて抜かれるレーサーの心中や如何に。
でもたいがいは、下りや平地で抜き返されるのだけど。
そしてこのあと、(た)さんの脚は攣ってしまった。路傍で屈伸運動をしているそばを過ぎる。
私は力になれない。先行させてもらう。ほんとうに申訳ないけど、私も自分自身の余裕がないのだ。


 
5.逡巡


しだいに町が近くなってきたようだ。大会本部、すなわちハーフコースゴールも近いか。
これまで平均23km/h前後の速度は維持できている。しかし、恐れていた睡魔が時折襲うのが気がかりだ。
信号待ちを幸いに、壁に凭れると、瞬時にして夢路を辿りそうになる。遠くでアイスクリーム行商の声が聞こえたような気がした。


「アイスたべたいねぇ」
(た)さんの声で我に帰る。たかさんとともに追いつかれた。
たかさんは「こぐさんどうする?」という。
どうするって、何を?と訊かずとも知れる。リタイアするかどうかにきまっている。
まずはハーフコースゴールまで走るほかない。考えるのはそれからだ。


そう割り切ると不思議と調子が出てくる。ゴール直前の急坂も苦にならない。
3人相次いでゴール。93kmを走った。
検印はひとまず、ハーフコースゴールとしてではなく、フルコースの第2チェックポイントとして受ける。前途抛棄はいつでもできる。
フルコース完走のための必達目標とした時限は12時半。しかし時計はすでに13時近い。
どうする?



6.蹶起


大会本部脇の木陰に3人が集まる。


たかさんの気持ちは、すでにリタイアに傾いてるようだ。
「ハーフコースは未だ完走したことになってないから、リタイアなら早く申告しないと、ハーフの記録がどんどん遅くなるよ。」という。
新車デビューは予想外の負担であったか。


私は正直なところ、それで少し安心した。私1人だけでリタイアという事態は避けられるかもしれない。でもそれは口に出さない。
「補給しながら考えよう」と、アミノバイタルプロとグリコーゲンリキッドなど摂取。
いつでも出れるように準備を進める。
「あと4時間で60kmほど走ればいい。平均20km/hで1時間休める。休みなしなら平均15km/h。不可能ではないよね。」
午前ゴール直前の調子なら走れそうな気もする。
でも、たかさんも(た)さんもやめるなら、私もやめてしまおうか。独りで走るのはつらそうだ。


(た)さんの発言に関心が高まる。
「午前よりペースは落とせるよね、、
 来年もう一度走るのはたいへんだなあ、、
 ここに他に誰もいないということは、リタイアした人はいないということだよね、、」
やめる方向のことばは出てこない。そして、


「(あ)さんは私が追っかけてくると思って今ごろ走ってるんだよね。」


私はこのことばをきいて、行くしかないことを確信した。
「諦めるには早いよね。行けるところまで行こう。
 そのかわり『おれかま』(おれにかまわず行け)でね。」


たかさんも、「(た)さんが行くなら行こう。」と翻意。
これで3人揃った。ワンダースリーかな。


(後篇に続く)