異次元の笠間センチュリーラン2002 後篇

Date: Wed, 11 Sep 2002
Subject: [BD cycling:10880] 異次元の笠間センチュリーラン 2002(後篇)


異次元の笠間センチュリーラン2002
 前篇 1.予兆 2.孤軍 3.邂逅 4.共闘 5.逡巡 6. 蹶起
 後篇 7.出撃 8.信念 9.兵站 10.掉尾 11.終章


(前編より続く)


7.出撃


会場の公園内を走りだす。それだけでも相当の疲労を感ずる。やはりやめておけばよかったかと思ってももう遅い。
でもどこが痛むわけでもない。暑さはこたえるものの、熱中症などの気配もない。全身の疲労感、そして眠気あるのみ。


メーターをリセットした。平均20km/hで走れる証左がほしい。先頭を牽かせてもらう。
最初の小さな峠まで約15kmは、昨日(あ)さん(た)さんとともに試走した。様子はわかっている。自分にむりのない速さ、でも緊張感を伴う速さで走ってみる。
峠に着くころには2人の姿はミラーから消えていた。けっこう走れるじゃないか。
でもそのかわり眠さは増している。
2人が来るまでにひと眠りしよう。2人の状態によっては、揃ってここでリタイアしてもよい。回収車に頼らなくても、大会本部までは下り基調で戻れるのだ。
歩道に横になる。ヘルメットの後頭部を路面に打ちつけてしまった。


うとうとする間に、「だいじょぶですか、先行ってます」との声。2人とも峠を通過していく。
元気そうだ。私も起きて走り出そうとする。眠い。
峠を下りきる前にもう一度横になる。5分以内に目醒めようと決め、そのとおり目醒める。



8.信念


那珂川沿岸、平坦だが迷いそうな区間。前後には誰もいない。コース案内の標識をひとつ見落としたら最期だ。
午前でリタイアしていれば今ごろ涼しい木陰で昼寝していたろうに。
なぜ来てしまったのだろうという自問の念は、朝よりも強くなっていたかもしれない。
(た)さんたちにはもう追いつけないのかと思うと孤独感はいっそう募る。
でも走り続けるほかないのだ。眠くならないかぎり。


やがて、沿道のよろず屋の前に見なれたパシフィックと新車コルナゴを発見!
お2人の姿は?店の中をのぞくと、アイスをなめる(た)さんとたかさん、いたずらを見つけられた子供のような笑顔。やっぱりアイス抜きに自転車乗れないよね。
扇風機にあたり、店主のおばさんと談笑。「きょうは自転車の人が多いね」だって。


店を出るとき、前途が不安になって、(た)さんについ弱音をはいてしまう。
「午後も走ってよかったと思えるときがくるのかなあ。」


「絶対くるよ。たとえ第3ポイントで回収されたとしてもね。」
そうか、わかった。完走できなかったとしても、最後まで諦めないことがだいじなのだ。行けるところまで行ければいいのだ。


再び私が先頭を牽く。仲間と走るときはこんなに元気が出る。
那珂川を渡り、第3チェックポイント。撤収には間に合った。
「あと25km。大きな峠や小さな峠が2つ3つくらいですよ。」とのこと。
時刻は15時半。ということは、もしかしたら完走できるのか!?
ゴールの制限時刻を訊くと17時という。スタートが15分遅れたのに?スタートに時間差があるのに?
でも、ともかく17時をめざして走るほかない。まだ回収されるわけにはいかない。


目標が改めて明確になった。自ずとペースが上がる。
道はしだいに山間部に入り、アップダウンも多くなってきたようだ。登りではやはり、一定の回転数、一定の負荷のほうが走りやすい。
「先で昼寝してるからね」と声かけ、(た)さんとたかさんを抜いていく。いっしょに走りたいけど、それでは昼寝ができなくなるのだ。
みんなは眠くないのかな。



9.兵站


眠さとともに、空腹感も増してくる。
山あいの陽射しはすでに秋の気配、日暮れまで間はあるものの心細さが募る。


補給食糧は、1日分だとけっこう重くなると思った。
今回はハーフコース終了時にスタートに一度戻る形になるので、スタート近くのホテル駐車場の車に午後分の補給食を置いた。
午前のゴール前、駐車場の脇を通った。しかし寄らずに通過してしまった。そのときはゴールを急ぎたかったし、気持ちの半分以上が午後リタイアのつもりだった。
午後出走を決めたとき、食糧をとりに戻るか迷った。でも、午前走った感じで、午後はそんなにいらないだろうと思った。駐車場まで戻る手間も憚られた。


さすがにおなかがへった。でもエネルギー源になるものはほとんどない。走りながら飲む所定濃度のVAAMの濃さが心地よい。腹の足しになるのか。
曲がり角の立哨のかたが「あと2キロで給水ですよ」と声をかけてくださる。あと2km。
さすがにバナナはもうないだろうな、でもあるかも、と一縷の望みで走り続ける。
2キロ走っても、給水所の気配はない。もう撤収してしまったか。
コースマップを確認する気力もない。道が峠にさしかかる手前で力尽き昼寝。


5分ほどで再起。少しく恢復した。道はしだいに峠の様相を呈する。しばらく進むと、道路反対側の路傍に給水所があった。立哨から5キロか、それ以上走ってるはずだ。
半ば撤収しかかってるようにみえた。バナナの気配はない。答礼とともに、思い切って通過する。
おそらく後半最大の峠であろう。不思議と、登ること自体はつらいと思われない。さすがにこのひと月で、麦草峠3回と乗鞍本番を走った慣れなのだろう。しかし眠い。
腹へった。


もう一度横になる。
仰向けのまま、(た)さんがくださった人形焼をいただく。おいしい。もっと早く食べればよかった。(た)さんのパワーをわけてもらった気がした。
それにしても(た)さんとたかさんはどうしちゃったろう。未だ抜かれていないはず。
ずいぶん後れてるのかな。
でも追いつくのを待ってるわけにもいかない。



10.掉尾


5分ほど眠って出発。
登りが続く。これがどれだけ続くのか、ゴールまで峠があといくつあるのかわからないのがつらい。
峠を越える。それほど長くも急でもなかった。一気に下りに転ずる。トンネルを抜ける。
相当に距離を稼げる。これで17時に間に合うか?
もう一度小さな峠を越える。前方に平野が開ける。西日に黄金色に輝く稲田。
遠くに町並みを望む。翼よ、あれが笠間の町だ!


市街に入る丁字路で立哨に止められる。自動車の流れの途切れるのを待つ。
横断歩道なんだから車を止めればいいのに!と思いながら待つのももどかしい。
レーサー数人が溜まっている。


車が途切れた。全力でスタート。レーサーもぶっちぎる。
やがて見覚えのある町並み。きのう(あ)さん(た)さんと蕎麦屋に行ったときに曲がった交叉点を過ぎ、きのう通った工事現場を過ぎる。
左折して最後の急坂をいっきに登る。17時まであと何分?
公園内を駆け抜ける。きょう3度目の大会本部が見えた。朝のスタートは遠い昔だ。
ゴールイン。テント前で下車。カードを渡す。時計は16時59分。間に合った。まるで計ったようだ。
公式記録は8時間42分、17時着。
(た)さんとたかさんはどうしちゃったかな。
 

やや離れたところに仲間の一団を発見した。みんな待ちくたびれちゃったでしょう。
あれ、(た)さんがいる。なんで?
きくと、どこかで昼寝の間に抜かれたらしい。
「こぐさんはもうだめかと思った。でもゴールできたんだね。」
私を最後に、全員時間内完走。よかった。


でも、(た)さんたかさんといっしょにゴールしたかったなあ。
ゴール時刻の差は2分ほど。
あと1回昼寝が少なければ追いついた。
でも、1回多ければ、17時の時限までに到着できなかったのだ。


たかさんの伴走に助けられつつも、(あ)さんを追って走り続けた(た)さん。
(あ)さんは先行しつつも、(た)さんリタイアの報が入電していないか心配で、休憩の
つどメールチェックしていたという。
お二人の身は離れても、どうりであつい1日であったわけですね。



11.終章


今回のイベントは予習不足だった。これまで1人で初めての道を走るときは、たいがい地形図で予習をしていた。イベントだから、曲がり角ごとに方向指示の看板が出ていると聞き慢心した。
道のり、地形、休憩箇所、これらにより自分の行動のひとつひとつを全体の中で適切に位置づけられるかどうか。
効率的なペース配分、補給はどうするか。
センチュリーランは作戦行動だと思った。自分の力を知り、それを十全に発揮するための方法を知り、実現への意志を維持しつづけることなしには成功しえない。


次はもっとじょうずに走れる。少なくとも今回よりはじょうずに。その確信はある。
次にどうすればいいのか、いろんなことを学んだ。


危うく前途抛棄するところだった。救ってくれたのは(た)さんだ。
たかさんはずっと(た)さんについて走ってくれていたようだ。そのおかげで、私は安心して勝手なペースで走り、昼寝することができた。
お二人のどちらがいなくても、私は完走することができなかった。
記して感謝申し上げます。


他山の石以て玉を攻むべしという。
(た)さんの意志は金剛石の如し。
あるいは、私の真価を問う試金石であったかのようでした。



(完)

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