「道路交通法改正試案」に対する意見


警察庁交通局 御中
2004年1月23日
(住所・氏名・連絡先)


道路交通法改正試案」に対する意見


1. 規範と取締りの公平


1.1 法令など規範のある社会で、規範が遵守されない状態は、次のような点で問題がある。

 第一に、規範の遵守によって実現されるはずの目的が実現されないこと。
 第二に、規範は遵守されなくて当然という風潮が社会に蔓延しかねないこと。


1.2 規範が遵守されていないとき、社会がとりうる道は次のようであると考える。

 第一に、規範を改める。遵守が困難な規範は、その目的とするところを達するために必要でない要素があれば変更を加え、遵守をより容易なものとする。
 第二に、規範が遵守されるべき手だてを講ずる。


1.3 これらにより実現される社会の公平とは次のようなものである。

 第一に、社会にとって有害な行為は違法とされる。有害でない行為は違法とされない。
 第二に、違法行為は必ず取締りを受ける。違法でない行為は取締りを受けない。

 これらは、道路交通社会における規範と取締りの公平について考える際にとりわけ重要である。


1.4 違法駐車問題についても、次のような点から解決を図っていくべきであると考える。

 第一に、駐車禁止規制の見直しを行う。駐車禁止は、交通の安全と円滑が損われる箇所に限定する。
 第二に、法令を遵守させるため、民間の多様な主体の力を活用して取締りを徹底する。
 第三に、これらを実効あらしむるための前提として、恣意や裁量の介在する余地を排す。


2. 駐車禁止規制の見直し

2.1 駐車禁止の規制は、交通の安全と円滑が阻害されるような箇所に限定してなされるよう、見直しを進めてはどうか。

 違法駐車取締りに際し、都道府県警はその重点を定めたガイドラインを策定し、公表すべきとの意見がある(*1)。
 違法駐車であっても、ガイドラインが重点としていなければ取締りを行わないという運用は危険である。一定の違法行為は容認されうるとの誤解を招くおそれがあるからである。また、恣意や裁量の介在する余地を残すことにもなりかねない。
 違法駐車の取締りは、取締りの重点を定めたガイドラインに沿ってではなく、法令とそれに基づく規制にしたがって行われるべきである。そのためにまず、駐車禁止の規制が、交通の安全と円滑が阻害されるような箇所に限定してなされるよう、見直しを進める必要があると考える。


3. 放置車両確認事務委託の充実


3.1 違法駐車取締りの地域を限定しない事務委託を可能としてはどうか。

地域の駐車実態等を踏まえ、違法駐車取締り事務を委託すべき地域等を都道府県警が決定するとの意見がある(*1)。他方、契約の当事者を警察庁とし、受託事務に従事する者の資格を全国共通として、地域を限定しない方法をとるとする立場もある(*2)。
 違法駐車取締り事務委託は、後者のように、地域を限定しない方法をとることが有用であると考える。前記2.1で述べたとおり、取締りは地域の実態に合わせたガイドラインに沿ってではなく、法令に基づく規制にしたがって行われるべきである。地域を限定した取締り事務委託は、法令外の地域固有の取締り慣行を醸成する温床となりかねない危険を孕むものと考える。


3.2 放置車両確認事務に広く個人の力を活用してはどうか。

 取締りを徹底してその公平性を高めるため、放置車両確認事務に広く個人の力を活用することが有効であると考える。以下のような方法により、多様な主体が受託者となりうるよう、門戸が広く開かれることを望む。


3.2.1 放置車両確認事務に従事する個人の資格について、明確な基準による制度を設けてはどうか。

 放置車両確認事務に従事する個人には、教育訓練や試験などにより、一定の資格を要することとして、取締りの質を確保する必要がある。
 この資格に求められるものは、事務遂行に必要な能力である。当該能力を有する個人は等しく資格を得られるよう、また事務遂行と関係のない能力や経験などを要求されることのないよう、明確な制度設計を行うべきである。 


3.2.2 放置車両確認事務を受託する主体は、法人だけでなく、任意団体等や個人も対象としてはどうか。

 取締りの実効を高めるため、商店街や住民団体などの任意団体等や個人も、一定の条件の下、放置車両確認事務の委託対象とすることが有効であると考える。
 取締りを個人や利害関係者に委ねると、公平性が確保されないおそれがあるとの意見がある(*2)。
 これについて、取締りの公平は、罪と罰が定められているかぎり、罪が必ず罰せられることによって実現されうるものと考える。広く個人まで受託主体とすることを通じ、取締りをより徹底して行うことが可能となり、公平はより確かなものとなると信ずる。


3.2.3 放置車両確認事務は、無償で受託することも可能としてはどうか。

 たとえ無償であっても、違法駐車の撲滅に寄与したいという動機をもつ主体は多く存在すると考えられる。そのような主体の力を活用するため、放置車両確認事務を無償で受託することも可能とするのが望ましい。
 受託法人等に属する個人としても、無償で当該事務に従事することを可能とすべきである。当該個人が会社員等の職業を兼ねているような場合、就業規則等により副業が禁止されている例も多いものと考えられる。


3.2.4 放置車両確認事務に従事する個人を広く受け入れるよう、受託法人等に一定の努力義務を課してはどうか。

 個人が放置車両確認事務受託の主体とならない場合に、受託法人等に属して当該事務に従事することを容易にするよう、個人従事者受け入れについて受託法人等に一定の努力義務を課すことも有効であると考えられる。
 たとえば、資格のある個人が無償で放置車両確認事務に従事することを希望する場合、受託法人等は原則として当該個人を受け入れるよう努力を義務付けるなどである。


3.3 付言

 違法駐車取締りに多くの主体が関与することとなれば、取締りの実効が上がることはもとより、運転者が車両を離れる前であれば、放置車両確認事務手続に到る前の警告等により、違法駐車を未然に抑止する効果も期待しうる。
 取締りや処罰の手続によらずに違法駐車が抑止されることは、限られた警察執行力の有効活用に大きく資すると考えるものである。


*1 違法駐車問題検討懇談会「違法駐車問題への対処の在り方についての提言」、平成15年9月。
*2 第4回違法駐車問題検討懇談会議事概要、平成15年7月22日。


以上