戦争なんかせんそー!

吉田俊雄「大和と武蔵―その歴史的意味を問い直す」PHP研究所、2004年。ISBN:4569634621
大和と武蔵 その歴史的意味を問い直す
著者は1907年生まれ、海兵卒、戦艦乗組みなどを経て軍令部参謀で終戦を迎えた。経歴への興味から、この著者の著作として初めて読んだ。
日露戦争での日本海海戦大勝利以来、帝國海軍の拠りどころとなった所謂大艦巨砲主義が太平洋戦争で航空戦力に対し如何に無力であったかを、空前絶後の2戦艦を象徴として論ずる。


海軍における幹部養成が記憶秀才偏重に陥っていたこと、年功序列人事が新たな用兵思想の桎梏となったことなどに関する指摘は本書を俟つまでもない。ただ、航空戦に対処できなかった要因のひとつとして、たとえ空母中心の艦隊を組成しても、指揮官のマネジメントがあくまで個々の艦を単位とした作戦思想の限界を出ていなかったとの論点は本書で初めて知った。航空機を単位として、搭乗員一人々々の技量や士気に到る配慮を伴った作戦手法への転換を戦訓から実現するには帝國海軍の組織も人もあまりに硬直したものだったのであろう。そのことが数知れぬ悲劇を生んだ。
将兵に死を命ずることと殆ど同義であるような作戦遂行が常態となった状況はやはり想像を絶する。


とはいえ、そのような状況に著者が当事者としてどのようにかかわってきたのか、本書から伝わってくるものはない。
事実認識も立論も、その出典や根拠が那辺にあるか多くは明示されていない。極論すれば、文献にあたればこの著者でなくても書けるような内容を出ていないといえそうである。
使われる日本語も古いのではない。「正しく」ない用法も散見される。編集者の責任もあろう。
というわけで、すぐれた類書はいくらもあろうと思うので、私は本書を一般にはお薦めいたしません。


関係ないけど、呉市海事歴史科学館には行ってみたい気もします。