古典的世界観

目次 0 序 1 心のよりどころ 2 価値と価格 3 株式投資とは 4 流通市場における思惑 5 株式会社の特権 /以下本文


0 序


ぽた郎さんの「超軟弱形而上日記」1/22付「市場とは誰のものか?」を拝読して。
投資の理論家でも実務家でもない私の世界観をおおざっぱに整理してみようかと思いました。文献やwebにあたれば類似の話題はくさるほどあるんでしょうけど、さしあたり何も見てません。最近の報道も事実を追うくらいで。
では思いつくままに。


1 心のよりどころ


投資とは儲けることである。儲かるなら事業分野は問わず。公共投資や慈善事業などでないかぎり。
かかる利己的な投資家の動機が株式市場や債券市場を通じて会社事業にカネをまわすための原動力となる。


儲けるという目的は株式投資家のみならず、その委託をうけて会社事業を営む者にとっても同じである。
世の経営者曰く、会社は社会に貢献する、明るい未来を建設する云々。それもけっこう。しかし儲からなければ会社はなりたつまい。


利己的な投資家が投じたカネが利己的な事業に用いられる。
この総和が社会にとって最適となるよう関係当事者のふるまいを調整する機能は、適切な法制とか広義の教育により醸成された倫理とか、あるいは他の何ものかに依存することがある。


2 価値と価格


株式に投ぜられたカネは会社事業で儲けるためにつかわれる。
いいかえれば、株式は事業に用いる資産を調達するための源泉の一部を構成する。
事業がうまくいけば儲けは山分けされる。分配にあずかる当事者は経営者、株主、会社である。分け前をそれぞれ役員賞与、株主配当、内部留保などという。
内部留保の蓄積が会社の価値を高める。


会社の価値とは何か。
会社を清算したときを考えてみると。資産を売って負債を返して残るものが会社の価値であろう。つまり資産引く負債。
これを資本という。資本は会社のものだからかつて自己資本といった。最近は会社は株主のものという理由で株主資本という。
内部留保は資本に蓄積され、資本の価値を増す。
資本がマイナスの状態は債務超過といわれる。このとき会社を清算してもマイナスが残る。


会社の価値をどうとらえるか。
まず資産と負債と資本の現在はどうか。これらは会計が主として数値により記述する。その方法はいろいろある。
記述されないものもある。含み資産とか隠れ負債とか。その他、数値により記述されえない価値をどうとらえるか。
いやそもそもが、会計や開示にいんちきがあっては会社の価値など知る由もなくなる。


会社の価値を決めるのは現在の要素だけではない。
将来の成長期待は現在の価値に反映する。将来マイナスの懸念もありうる。
期待や懸念を形成するための要素は多岐にわたる。経営者や従業員の質、商品力・技術力、信用力、情報力、速度、等々。経営資源といわれるもの全般にわたるかもしれない。


価値あるものが市場で売買されるときには価格がつく。会社の価格とは何か。
会社を完全に自分のものにするのに、つまり株をすべて買うのにいくらかかるか。株価と株数の積である。これを時価総額という。


3 株式投資とは


株式投資とは第一に、この会社の一部をこの株価で買うに値すると判断してそれを実行すること。
時価総額が開示された株主資本の額以上であれば、会計で記述されていない価値がその会社に見出されていることになる。
投資家はそこに如何なる価値を見出すのか。


株式投資とは第二に、自分の株式の、つまりその会社の価値を高めるために経営に参画すること。
投資家はその会社で、その事業で、何を実現しようとするのか。


株式投資家のとるリスクの限界は、買った株式の価値または価格がゼロになることである。
会社の価値がマイナスになっても株式投資家はその責を負わない。


そして株式投資とは第三に。売買益を得ようとして株式という商品を購入すること。


4 流通市場における思惑


昔々は一航海一会社というようなしくみがあったらしい。植民地貿易の主体として、もとでを募って会社をつくり出帆、めでたく帰港の暁には事業者・投資家ですべてを清算・分配して会社は消滅、というようなものらしい。
その後、"going concern"などといって会社が永続をめざすようになると、清算・分配を待たず元本を回収したい投資家にとって、株式の流通市場というものがいみをもってくる。株式を商品として随時売買しうる場があってこそ、より多様な投資家のより多額のカネが株式に集められる。


流通市場では株式が商品となる以上、その価値にかかわらず、安く買って高く売ることにより儲けようという投資行動が起きうる。それを避けることはできない。
価格は需給の影響も受ける。需給は売買当事者の思惑をも反映する。


5 株式会社の特権


債券投資家に対し会社は約定にもとづき元利払いの責を負う。支払能力が不十分な場合には物的なあるいは人的な保全措置で補われることもある。
しかるに株式投資家に対しては。利益配当さえ株主総会の任意である。会社はそれ以外の支払義務がない。
つまり他人から株式の形で預かったカネをつかって事業に失敗しても会社はそのカネを返す義務がない。株式会社の特権たる所以。


ただしこれが保障されるのは、会社が適法にふるまうかぎり。かつ、経営判断にあたって妥当な手続がとられるかぎり。
経営判断が結果として会社の価値を損ねたとしても、それが適法で妥当な手続を経たものであるかぎり、経営者は株価下落を補償する責を負わない。


会計説明責任(accountability)や内部統制(internal control)はかかる特権の適法妥当性を担保するものとしてとらえられる。
というわけで拙稿'05/6/28付「会計・内部統制・監査」につづく。