幽霊よ何処

昨年4月ころ、自転車界は突然の幽霊出現に翻弄された。自転車の車道通行禁止法制化という幽霊に。
ことの真偽をめぐって、わたくしは国家公安委員会に照会したり、警察庁に行政文書開示請求を行ったりしたものの、事実を確認することはついにできなかった *1


先月、幽霊は再び、おぼろげな実態を伴ってあらわれた。 「自転車の安全利用の促進に関する提言」について」 *2と名づけられていた。
而してその実態は。


幽霊はただの一文であった。
[提言]26枚、[資料]27枚、[概要]2枚、[要旨]1枚のうち、ただの一文。

自転車が車道を通行することが特に危険な場合は、当該道路の自転車通行を禁止するなどの措置を講ずること

この文を以て、「提言」は自転車車道通行禁止法制化の陰謀だ、ととる向きもあるやにきくが。かかる解釈は、わたくしの理解を超えていた。
なぜならば。一読、「提言」を貫いているのは、徹底して、自転車を車道における交通手段として活用しようとする理念であるように思われたからである。


「提言」本文にある上掲文の趣旨は「概要」や「要旨」にはない。12/3付で指摘したとおり。
意図的に隠したようにはみえない。梗概に掲げるほど重要でないから書かなかったまでであるようにしかみえない。
文脈を読むべし。以下、枠内太字引用者。

第4 自転車の通行空間・通行方法の在り方について


1 自転車の通行空間の考え方
(略)
 ただし、上記のような自転車の歩道通行を認めることとする場合には、歩道では歩行者の安全を最優先すべきであることから、子供や高齢者を含む歩行者の通行の安全を確保するため十分な配慮が必要であり、歩道上での自転車の通行ルールを明確化するとともに、これを普及啓発し遵守させる努力が必要である。
(略)


2 自転車の走行環境整備の在り方
 (略)。
 自転車利用の安全性と迅速性・快適性を可能な限り確保し、自転車と自動車、歩行者との適切な共存が図られるよう、以下のような観点から自転車の走行環境の整備を推進していくことが望まれる。
(略)
(4)上記の環境整備に当たっては、
 ○ 自転車道や車道における自転車の走行環境の整備状況に応じ、自転車歩道通行可の規制を解除すること
 ○ 自転車が車道を通行することが特に危険な場合は、当該道路の自転車通行を禁止するなどの措置を講ずること
など個々の道路について交通環境の変化に応じた交通規制を実施するよう配慮する必要がある。
(5) 自転車の走行環境の整備方法については、個々の道路ごとに、道路状況、交通実態等を勘案して検討すべきであり、警察と道路管理者、地域住民等が協議の場を設けるなどして、道路整備や交通規制の在り方等について関係者の意見を集約しながら整備を進めていくべきである。
 (略)。


3 自転車の通行方法の在り方
4 その他

つまり。
自転車の特性を活かし、かつ自動車や歩行者と共存させるために。
個々の道路の走行環境の整備状況によっては、自転車の歩道通行を禁じたり、車道通行を禁じたりする必要も、あるかもしれない。
しかしそれは、警察・道路管理者・地域住民等が協議などしながら決めるべきでことである。
警察権力が恣意的に決めたり、法本則で一律に決めたりすることではない。
一読、このように理解した。12/2付に簡記したとおり。


そもそも、自転車の車道通行を法本則で禁ずるとは、どういうことか。
「自転車は、歩道等と車道の区別のある道路においては、歩道等を通行しなければならない。」などと法定するのか。


もとより、区間を限った自転車通行禁止の規制はすでに現行法下で広く行なわれている。
自動車のために設けられたような立体交叉区間とか、欄干の低い橋*3とか。


個別区間などを限定した規制の意思決定主体は都道府県公安委員会である。その意思決定を法本則が左右することができるのか。

道路交通法 第4条
第1項 都道府県公安委員会(以下「公安委員会」という。)は、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図り、又は交通公害その他の道路の交通に起因する障害を防止するため必要があると認めるときは、政令で定めるところにより、信号機又は道路標識等を設置し、及び管理して、交通整理、歩行者又は車両等の通行の禁止その他の道路における交通の規制をすることができる。この場合において、緊急を要するため道路標識等を設置するいとまがないとき、その他道路標識等による交通の規制をすることが困難であると認めるときは、公安委員会は、その管理に属する都道府県警察の警察官の現場における指示により、道路標識等の設置及び管理による交通の規制に相当する交通の規制をすることができる。
第2項 前項の規定による交通の規制は、区域、道路の区間又は場所を定めて行なう。この場合において、その規制は、対象を限定し 、又は適用される日若しくは時間を限定して行なうことができる。


自転車車道通行法制化という幽霊は、昨年は存在しなかった。少なくとも私の目には見えなかった。
では「提言」の中にいるか。幽霊かもしれないと思ったのは枯尾花だったようだ。道交法改正試案(pdf) *4にも幽霊はいない。
去年から今に到るまで、私は幽霊を見ていない。


幽霊はどこにいるのか。見た人いますか?

*1:拙稿「自転車の車道通行禁止法案に関する経緯まとめ」'05/6/22付

*2:拙稿12/1付。

*3:神奈川県江ノ島大橋など。拙稿4/15付「神奈川県公安委員会委員長殿」にて規制解除の提案。

*4:警察庁「『道路交通法改正試案』に対する意見の募集について」12/29付。