生きる意志


何?身におぼえはないがたいしたことないさ、と思いつつ収監される。
あれよあれよという間に一審二審と進み、上告はあえなく棄却、死刑が確定した。冤罪だ。
執行は今夜だって?
せめて罪一等を減ぜられていれば、雪辱を果たす意志をよすがに生きることができるのに。


残された時間を配分をして、書けることを書いておかねば。
紙と筆記具をください。え?反故紙の裏を使えって?白紙はないんですか。
ペンもないんですか。鉛筆ではあとで改竄されないとも限らないのに。


「ぼくはくやしい。冤罪だ。」
これだけしか書けなかった。


時刻が迫る。刑場を整える獄吏の動きが慌しくなる。
けむいぞ。咥え煙草やめなさい。線香も消してください。仏教徒じゃないんだから。換気換気。
聖歌隊がやってきた。基督教徒でもないが、まあいいか。


刑場に13階段などあるわけではない。ごくふつうの一室だ。天井から縄の環が下がっているのを別にすれば。
その下の床が抜けて階下に落とされるのだ。床のどこが落ちるのか見分けはつかない。
促されて、縄の下へ、一歩ずつ歩を進める。目隠しはされていない。


視界に縄の環が近づいてくるところで目が醒めた。
いやに生々しい夢だった。


下掲書1など読み始めたせいかな。影響されやすいkog。

1 ヴィクトル=エミ−ル=フランクル「夜と霧 ドイツ強制収容所の体験記録」霜山徳爾 訳、
 みすず書房、初版1961年、新装版1971年。ISBN:4622006014
 Frankl,Viktor E."EIN PSYCHOLOG ERLEBT DAS KONZENTRATIONSLAGER"
 Oesterreichische Dokuments zur Zeitgeschichte I,Verlag fuer Jugend und Volk,Wien,1947.
夜と霧――ドイツ強制収容所の体験記録
数年前に新訳が出て話題になりましたね。
旧版を入手したのはもう17年前ですが、図版と解説を一読したのみで、本文はなぜか読む気になれなかったのです。