不条理


「夜と霧」と同時期に購入して、同じく読んでなかったのが2です。
著者は加賀乙彦の筆名で知られる精神医。2は本名で上梓された学術書です。


私が初めて氏の著書を読んだのは3が新刊で出たときでした。
精神医として死刑囚に接する著者のまさに記録で、取材者と対象を同じくするルポルタージュのようでした。


その後、文庫化された4を新刊で読みました。
実在の死刑囚を題材に、生い立ちや犯罪に到る過程、死刑囚となってからの内面の変化などを描く長編小説です。
学問的分析や聞き書きの取材で表現されるものの限界を小説という方法が克服した。小説でなければ得られない感動というものがあります。


現在の日本では受刑者に死刑執行が伝えられるのは当日の朝、模範囚でも前日というのが原則だそうです。
死刑囚はきょうが最後の1日になるかもしれないという緊張から濃密な1日1日を生きようとする。
他方、無期囚はいつ果てるともしれない同質な日々を無為に過ごす例が多い、というのが著者の分析です。


法が人を殺す不条理に加え、執行までの年月、死の恐怖にさらされて生きることを強いられる惨酷さ。
私はたとえ肉親を殺されたとしても、犯人に死刑を望むことはないと思っています。生きてこそ悔い改めることができるのです。


2 小木貞孝「死刑囚と無期囚の心理」金剛出版、1974年。ISBN:4772400303
3 加賀乙彦「死刑囚の記録」中公新書中央公論新社、1980年。ISBN:4121005651
4 加賀乙彦「宣告」新潮文庫、新潮社、1982年。上巻 ISBN:4101067023 下巻 ISBN:4101067031