「提言」の「1行問題」とその対策

昨日付からつづく。


11月末の「提言」 *1公開以来、その中の1行が物議を醸しているようですね。

○自転車が車道を通行することが特に危険な場合は、当該道路の自転車通行を禁止するなどの措置を講ずること


一読したときから、法改正のために「提言」に掲げるほどのことではない、という気がしていました。
’07/12/2付記載のとおり、現行法でできることだからです。すでにひろく行われています。
都道府県公安委員会が下掲に基づいて規制の是非を判断し意思決定し、道路標識等を設置して示す手続によります。以下枠内太字引用者。

道路交通法(昭和35年6月25日法律第105号)
第4条第1項 都道府県公安委員会(以下「公安委員会」という。)は、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図り、又は交通公害その他の道路の交通に起因する障害を防止するため必要があると認めるときは、政令で定めるところにより、信号機又は道路標識等を設置し、及び管理して、交通整理、歩行者又は車両等の通行の禁止その他の道路における交通の規制をすることができる。この場合において、緊急を要するため道路標識等を設置するいとまがないとき、その他道路標識等による交通の規制をすることが困難であると認めるときは、公安委員会は、その管理に属する都道府県警察の警察官の現場における指示により、道路標識等の設置及び管理による交通の規制に相当する交通の規制をすることができる。
同条第2項 前項の規定による交通の規制は、区域、道路の区間又は場所を定めて行なう。この場合において、その規制は、対象を限定し、又は適用される日若しくは時間を限定して行なうことができる。
第8条第1項 歩行者又は車両等は、道路標識等によりその通行を禁止されている道路又はその部分を通行してはならない。

警察庁交通局長通達「交通規制基準の制定について」(平成11年10月25日警察庁丙規発第28号・丙都交発第21号)*2 *3
第4章 交通規制の実施基準及び道路標識等の設置基準
第1-7 軽車両通行止め
対象道路
原則として次のいずれかに該当する道路
1 オーバーパス、アンダーパス又はトンネル等で自動車の通行が多く、かつ、十分な車道幅員がないため、軽車両の混在通行により交通事故が発生するおそれのある道路
2 急勾配又は屈曲等道路構造上軽車両の通行が著しく危険であると認められる道路


この運用にあたって、「提言」はむしろ慎重な方法論を提案しているようにみえます。

第4 自転車の通行空間・通行方法の在り方について
1 自転車の通行空間の考え方 (略)

2 自転車の走行環境整備の在り方
 (略)
 自転車利用の安全性と迅速性・快適性を可能な限り確保し、自転車と自動車、歩行者との適切な共存が図られるよう、以下のような観点から自転車の走行環境の整備を推進していくことが望まれる。
(1)〜(3) (略)
(4) 上記の環境整備に当たっては、


 ○自転車道や車道における自転車の走行環境の整備状況に応じ、自転車歩道通行可の規制を解除すること
 ○自転車が車道を通行することが特に危険な場合は、当該道路の自転車通行を禁止するなどの措置を講ずること


など、個々の道路について交通環境の変化に応じた交通規制を実施するよう配慮する必要がある。


(5) 自転車の走行環境の整備方法については、個々の道路ごとに、道路状況、交通実態等を勘案して検討すべきであり、警察と道路管理者、地域住民等が協議の場を設けるなどして、道路整備や交通規制の在り方等について関係者の意見を集約しながら整備を進めていくべきである。
 また、こうした取組みを計画的に進めるため、モデル地区を設定し、社会実験として自転車の走行環境を整備することも検討すべきである。


3 自転車の通行方法の在り方 (略)


問題の1行をとらえ、それが恰も「提言」の結論であるかの如き、あるいはそれにより自転車の車道通行禁止が法定されるかの如き印象をお持ちのかたが多いような気がします。
私にはそうはみえませんでした。なぜなら。


1 現行法令に基づきすでに行われていることだから。
2 通行空間の考え方や、そこから導かれる通行空間の在り方の結論の項でではなく、環境整備の項において、それに付随する措置として扱われているから。
3 「自転車歩道通行可」の解除と並列して扱われているから。
4 より慎重な手続により実施すべき旨の提案を伴っているから。


とはいえ、公安委員会も警察も、放っておくと何をしでかすかわからない。
その権限行使を牽制する方法はいろいろあります。たとえば。


1. 都道府県公安委員会が自転車の車道通行禁止の意思決定を行う際の手続について、次の趣旨を法本則に定める。
 1.1 「政令で定めるところにより、道路管理者、地域住民、道路利用者等と協議を行わなければならない」旨。
 1.2 「自転車の交通の円滑を尊重するようにつとめなければならない」旨。
2 上掲の交通局長通達の基準の内容を法本則または政令に定める。


いずれも、「提言」の掲げる原則を徹底するために、その例外を局限する施策です。
1/4付拙稿パブリックコメント案でも、これに関する方針を掲げていたところでした。
自転車の歩道通行に関する具体化案は1/24付にて。


「提言」の「1行問題」を潰すには。
「提言」の原則を徹底し、例外を局限する方法を具体化すればよい。


歩行者と自転車の分離、自転車と自動車の共存をめざすために。
「提言」や「試案」 *4の全否定は後戻りが大きすぎるような気がします。


2/3 21:09追記
パブリックコメント提出稿は翌々日付掲載。

*1:'06/12/2付。

*2:1/18付1/19付既出。二次取得情報で原典未確認。

*3:当該通達は私の行った1/24付行政文書開示請求を契機に2/6公開されました。句点を修正。2/11付に経緯など。同日追記。

*4:'06/12/28付。