「新たな自転車利用環境のあり方を考える懇談会」第1回傍聴記

5/18付からつづく。
国交省の諮問会議だからどうせ道路を作るための構造論議の堤燈行列だろ、と思ったら意外や意外。
道路構造のみならず、自転車交通全般をめぐるかなりまっとうな政策論が行われた印象でした。
この議論が提言に如何に反映されるのか。あるいは官僚によるホネヌキ過程を見ることになるのか。
以下、議場での鉛筆書きメモから再現。文責kog。


第1回新たな自転車利用環境のあり方を考える懇談会


開催日時:平成19年5月18日(金) 10:00〜12:00
場所:虎ノ門パストラル 新館 6F ぺーシュ


懇談会メンバー
座長 屋井 鉄雄   東京工業大学大学院 総合理工学研究科教授
副座長 久保田 尚  埼玉大学 工学部教授
  片山 右京   レーシングドライバー
  勝股美代子   消費生活アドバイザー
  古倉 宗治   財団法人 土地総合研究所 理事
  小竹 一枝   NPO法人 女性みちみらい上越 理事
  小林 成基   NPO法人 自転車活用推進研究会 事務局長
  関  一    財団法人 全日本交通安全協会 常務理事
  森山 みずほ  モータージャーナリスト
その他出席者
国土交通省 みやた道路局長/しもやす地方道・環境課長/ごとう道路交通安全対策室長
警察庁  やしろ交通局長/おおた交通規制課長/はやかわ交通企画課交通安全企画官


0:00(経過時間、以下同。)
道路交通安全対策室長: 1名遅れているが定刻なので開会する。
道路局長: 昨年の改正道交法施行で駐車対策が進み、自転車対策の前提が整備された。
交通局長: これまで自転車対策を脇に置いてきた。対策を進めたい。
座長: 自転車への世の関心が高まり広がりつつある。私自身においてもそうである。
 自転車の車道通行原則について再確認したい。また、道路の再配分のみならず、ネットワーク利用の可能性を探りたい。
 自動車・自転車相互に応分に負担しつつ。多少迂回しても安全に。
0:20 両局長退席。
事務局から資料説明。
0:40


座長: 各委員名簿順に1人5分以内で意見を述べ、その後フリーディスカッションとしたい。
片山: 子供のころ自転車に乗りその後自動車を運転するようになった。自動車に乗ると自転車をじゃまと思うこともある。
 現在でも自転車で長距離を移動することがある。国際競技ではF1と自転車とサッカーに日本選手のいないのが残念だ。
 歩道上やままちゃりの安全環境整備に尽力したい。
勝股: 第一に一般消費者として。幼稚園に駐車場がないから母親が乳幼児を自転車に乗せている。
 生後数ヶ月からでも、あるいはきょうだいを乗せることもある。この現象をどうするか。 
 第二に通勤の問題。私の甥が自動車会社勤務だが自転車通勤をしている。
 第三に二酸化炭素削減。これまでの自動車にやさしい政策から少子高齢社会に向けた転換が必要。美しく暖かく心豊かに。
 消費生活アドバイザーとして自動車会社の支援を受けている立場でもあるが。
古倉: 資料ではミュンヘンと名古屋の自転車走行空間の比較があった。
 自転車専用空間と自転車・自動車共用空間について彼我の違いがある。外国では"share the road"という考え方もある。
 専用・共用空間をそれぞれ組み合わせてネットワークを形成する手法もある。
 共用空間は危険かとの問いには過激なことも申し上げる。すなわち、自転車は歩道上を走るほうが危険が大きい
 なぜか。自転車の事故の7割が交叉点で、1割が沿道店舗周辺などの歩道で起きる。車道本線上は1割にすぎない。
 歩道の自転車は自動車から見えない。車道では見える。
 歩道上では自転車は強者である。いわば裸の王様であって、自分では安全と思っている。そういう人が車道で事故に遭う。
 車道での自転車は弱者として自らの身を守る方法を学ばねばならない。それがルールを守ることにもつながる。
 車道上で安全な自転車の環境づくりが課題である。
座長: 今のご発言で重要な論点が提示されたと思う。
小竹: 上越市在住の自転車利用の庶民として。
 車道は怖いからどうしても歩道を走ってしまう。警官に訊いても歩行者が少なければ黙認される。
 ベルも鳴らさず歩行者をぬうように走る高校生などは問題だ。
 自転車のほうが自動車より台数の多いことに驚いた。
小林: NPO法人で活動している。自転車乗りのためではなく、環境やエネルギー問題との調和を図ろうとしている。
 自転車利用者としては過激なことも申し上げる。
 第一に、安心して歩ける歩道を確立することが課題である。それなくして文明国とはいえない。
 しかし、自転車を車道に出せ、自動車を使うな、公共交通機関を利用せよ、自転車に乗れ、等々を一律にいうのではない。
 選択可とすること、まず始めることがだいじである。
 第二に、人の通行権、町のあり方、都市における交通、といった問題もある。「通行空間」に集約しきれない。
 これまでの政策は、道がない、道が狭いことを言訳にしてきた。パリでできたことが日本でできないのは思想の差である。
 「マナー標語」でいわれていることはルールである。しかし複雑すぎる。これを簡単なものにしなければなるまい。
 「自転車教室」でパイロンをジグザグに走る教程などやめるべし。歩行者をぬって走ることを教えるようなものだ。
 守ることのできない法もある。警察官が手信号を出しているなど見たことがない。
 歩行者も含めた教育が課題。文科省も加わるとよい。
関: パイロン走行練習は片手運転を容易にし、手信号のためにもなるかもしれない。
 自転車・歩行者共有の歩道の状況を改善し事故を減らすという目標をどうするか、方向性を見出したい。
 大都市内と地方や都市間では条件も異なろう。
森山: 遅刻申訳ない。道中、自転車どうしの事故現場に遭遇、救助などに協力して時間がかかった。
 双方とも子供を乗せた母親である。一方通行路どうしの交叉点で、両車とも指定方向に進行。
 一方が左側走行から左折したところ、右側通行かつ一時停止不履行の相手と衝突した。
 私も保育園送迎のため片道4kmを自転車で走っている。多くの母親は自転車など数年ぶりのはず。
 保育園の駐輪場で自転車を出すのに、ハンドルをどう切れば自転車がどう向くかわからぬ母親もいる。
 自転車のことはわかる人にはわかってもわからぬ人にはわからぬ。
 わからぬ人にどう伝えるかがだいじである。そこが問題解決の近道にもなろう。
1:15


座長: 議論は幅広く、提言策定は集中して行いたい。
副座長: 資料3の8頁は興味深い。古倉委員の意見に賛成である。
 総道路延長に対する自転車道延長の割合で日本が0.6%というのはいかにも少ない。
 オランダですら8.6%である。欧州はどこも同じくらいかと思ったがそうでもない。
 目標をどこにおくか、どこまでやるか、あるいは局地戦を戦うかといった問題もある。
 2頁、都市部での自動車移動で5km未満が4割という。どのくらい自転車道を作ると自動車から自転車にシフトするか。
 このへんは0.6%をひと桁上げるためにターゲットを定めやすいところかもしれない。
 8頁画像で路面の区分の例が示されている。植栽帯のような形以外でも、欧米では柱に釣鐘状に植物を掲げる例もある。
 車道中央のゼブラ帯を有効利用する方法もある。生活道路では自転車に一時停止させる構造も必要か。
 お願いであるが、審議は短期決戦となる。国の知見を総投入して並行的に進める必要がある。文科省厚労省の参加を求めたい。
1:25


座長: 6頁、自転車通行可でない歩道のある道路、または歩道のない道路が100万kmに及ぶとある。
 ここがいわばmissing linkで、これをどうつなぐか。択一可とし、選択の余地を広げるには。
古倉: 自転車の歩道通行と車道通行で前者が危険ということについて、行政も調査してデータを出すべきである。
関: 地域差も大きい。
勝股: 歩行者としては自転車には車道を走ってほしいが、自転車に乗ると歩道を走りたい。
 英国では、路面を波打たせて自動車の高速通過を妨げているところもある。そのような工夫を地域限定モデルのような形でできないか。
 江の島から腰越あたりは、車道を削って歩行者や自転車のための空間を設けてもよいように思う。
 ことはそのくらいの勢いで進めねば。事務局の考えもききたい。
片山: 自転車にはホビーと生活の両面がある。
 スポーツサイクリストはマイノリティだが、手信号を出す。
 事故は起こる。法制だけでなく教育も重要。
森山: 自転車といっても40km/hと20km/hが並存する。
 スポーツ車は車道、ままちゃりは歩道と棲み分けるのがよいか?
 専用道を作っておしまいではなく、速度差をどうするのか。自動車と原付の関係を繰り返すのではなく。
古倉: 自転車の車道通行に固執するわけではない。
 空間的余裕と危険性の2つを指標とし、それぞれ大小の組み合わせで、物理的分離、専用レーン、歩道通行、迂回などの策を選択できる。
 自転車についてつねに配慮されているということが自転車の利用率を高める。
小林: 自動車をどうするか。私は自動車の運転も大好きである。
 中心市街地の人車混在空間は30km/h制限でよい。川口で暴走車が幼児の列を撥ねた事故では60km/h制限だった。
 欧州には"zone 30"とか"tempo 30"とかの名で30km/h制限とする考えがある。
 東京も環状6・7号の内側は30km/hでよい。ただし通過車輛の高速は維持する必要がある。 
 zone 30と路上駐車一掃が実現すれば都市交通は大きく変わる。
 パリではこの数年のうちに、第一に信号が減った。roundaboutとzone30があってこそ可能だった。
 第二にバスレーンが普及している。7時から19時、月曜から土曜はバスレーンという。
 背後に公共交通機関優先の思想がある。バス>タクシー>貨物車>乗用車、という優先順位である。
 バスレーン拡充によりバスが遅れなくなった。バスは遅れないから20km/h巡航で足り、自転車と共存できるようになった。
 子供用自転車の歩道通行は各国で認められている。
 しかし小学校高学年になると速度も増す。歩道通行が当然という教育は問題である。
 欧州では子供は「早く大人のように車道を走りたい」と感じている。
古倉: バスレーンは貴重である。ロンドンの2階建てバスにはカメラが装備されていて、バスレーンへの侵入車の通報に役立てられている。
 侵入車にバスは警笛を鳴らす。それは自車のためではなく、自転車やタクシーのためにという意識もある。
小林: バスが遅れないと昼間の仕事にも使える。現状では暇のある人しか利用していない。これが赤字を生み、補助金の無駄を生む。
 バスレーンの障碍となるパーキングメーターなどはやめるべきである。
関: 自転車教育が弱い。
小竹: 小学校から上がルーズである。放置自転車に関して、防犯登録の徹底はできないか。年配者にも再教育が必要。


座長: 時間も押してきたので爾後手短に。
森山: ルールを如何に伝えるか。マナーの持ち方に日欧で差がある。
 現在の30代から40代は生まれてから車に接した。車社会の歴史も日欧で異なる。
 教育は大人が真似するように。大人は取締りを受けても守らない。
副座長: バス専用レーンに自転車は入れるのか。
 zone 30や路面上に波打ちを設ける手法は参考になる。
 反省もある。歩行者を守るために建てるポラードは自転車の通行を妨げることもある。
座長: 提言の素案をまとめねばならない。
交通規制課長: バス専用という規制の効力は軽車両には及ばない。
 防犯登録は自転車法上の義務である。未登録の数は不明である。譲渡などがあると現時点の所有者がわからぬという問題もある。
 市街地のzone 30も全域で幹線も含むとなると難しい面がある。
 川口の暴走事故の例では、60km/h制限というのはその速度を許可するものではない。道交法70条の安全運転義務違反は免れない。
 路上駐車は追放すればよい、とも限らぬ。乗降、荷役など一定の需要もある。
事務局: 各委員の追加意見などはメールでも受ける。