現在を問われる

白鍵と黒鍵の間に―ピアニスト・エレジー銀座編 装幀 名久井直子
南博*1「白鍵と黒鍵の間に―ピアニスト・エレジー銀座編」小学館、2008年。ISBN:9784093877893 (4093877890)


発売日は5月15日、奇しくも著者の誕生日だそうで、よく考えたら我が甥っ子も同日生まれであった。
しかし当日、大手書店のwebで検索してみたら品切れ中とある。
そんなはずはあるまいと思って、仕事を終えてから開いてる店を訪ねても、どこにもない。外資系大手レコード屋にもない。初版即日完売とか?
店頭平積みを見つけたのは翌週月曜のこと。紀伊國屋本店1階にて、E.Clapton自伝と並んで。


ふむふむ。氏は音楽高校へ進んだのであったか。ジャズに目覚め、西欧近代保守本流と袂を分かったのか。
場末の酒場を振り出しに六本木、銀座へと進出したのか。やはりPit Innにも出演していたのか。
語り口の端々から少年時代の口調を思い出したりして。


バブル期の銀座に絡めとられたり埋没したりすることなく、著者はバークリー音楽大学への留学を果たす。
そのころのわたくしといえば、バブルを煽る仕事に嫌気がさして転職を画策。
著者がボストンへ旅立ったその年その月、採用内定を得て、当時の勤務先と退職交渉を始めていたのであった。


自分がたいせつにしたいもの、失ってはいけないものを持ち続けることの困難さと尊さを本書は教えてくれる。
読み手の現在を問われているようでもある。


11日付日経夕刊7面「エンジョイ読書」に井上章一の書評。
見出し「酒場のピアニストの悲哀」くらいに括られるものではあるまい。

*1:CDへの言及は'06/10/24付'08/5/5付など。